黒髪のみだれもしらず

お題「好きな短歌」

 

黒髪のみだれもしらずうちふせばまずかきやりし人ぞ恋しき

和泉式部 後拾遺集755

 

 短歌ってやっぱり詩だし、もちろん定型詩だと正しい読み方ってのはあるんだろうけどそれ以上は受け取り方もひとそれぞれ、受け手側の持つ経験も心の持ちようも本当それぞれなので、変に思い入れの強い解説や現代訳を読むとちょっと自分の感覚と合わないように感じる時もあるので、私的な解釈などはおいておいて、これは文句なく三十一文字だけでぐっとくる歌だと思います。絵が浮かぶだけでなく、この彼女の感覚、実際感じたことのあるらしい手の感触、そして胸に浮かんでいるであろう言葉以前の彼女の思い、うちふし泣く彼女を客観的に見ている何者かの視線まで、私はこのような体験が無いのに心に呼び起こされてしまうという、そういうところが好きだなと思います。

 ~人ぞ恋しきというのはありふれた感じがして正直別に好きな終わり方ではないのだけれど、比喩や凝った言い回しを使わずただ「恋し」という単純な言葉であるのがやはり良いような気がする。それだから具体的なエピソードから普遍性が高まり彼女に引き込まれるのかもしれない。黒髪、みだれ、~もしらず、うちふす、~せば、まず、かきやる、~りし、を中心に(っていうかそれってほとんど全部)言葉の美しさと、リズムの良さに感動します。うちふせば、が私は一番言葉として好きです。「まず」が間に入っていることで前半と後半がそれぞれ際立って、それがきれいにつながっているなあと感じます。まず→恋しき、できれいに収束して。

 というあたりが、この短歌の好きなところです。